ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

ウォーターランド (新潮クレスト・ブックス)

今日も新潮クレストブックスの本の紹介。
それぞれ結構値段張るんだけど、図書館に意外といっぱいおいてあるので
探してみてくださいw
今日はこの528ページもある長編小説。


52歳の歴史教師トム・クリックは退職を迫られていた。
自分の妻メアリーが、神の意志だと言って赤ちゃんを誘拐してしまったせいで。
彼に残された時間は少なかった。
彼は子供達に伝えなければならない物語、歴史を抱えていた。
「こどもたちよ・・・」
この呼びかけから、物語は始まる。
それはピューリタン革命ではなく、生まれ故郷であるフェンズと自分、家族の歴史。
イングランド東部のこの沼沢フェンズで、父方のクリック一家は水とともに暮らしつづけた。母方のアトキンソン一家は、沼地を出て大麦を作り、ビールで富を築いた。
さらに自分とメアリーの少年時代のこと。恋、性の目覚め。
話は時に脱線し、ウナギに関する学術的な話へと飛び、核戦争の恐怖、フランス革命の本質についても語られる。
まさにフルコース。しかしこの物語があくまで静謐さに満ちているのは、その舞台となっている沼沢フェンズが原因なのだろう。物語はゆっくりと、静かに、しかも着実に進行していく。
此処で描かれているのはまさに、人そのものについて。

むかしむかしあるところに、未来の歴史教師と未来の歴史教師の妻がいて、そのふたりにとってまずい事態が出来し、それで――過去を消すことは出来ないものだから、そして人間にはどうにもならないことがあるものだから――ふたりは何とか間に合せを見つけ、しのいでいくほかはなかった。

それがトムにとっては物語を語る本質だった。なんとかの間に合わせとして、彼は物語る。

イギリス文学を読んだことがない方は、是非おためしあれ。