遅ればせながら、蒼天航路全36巻読破。

蒼天航路(36)<完> (モーニング KC)

蒼天航路(36)<完> (モーニング KC)

偉大な、漫画でした。
我々の知る三国志のエピソードはほぼ全て「三国志演義」という、羅貫中という人によって作られた後世の小説からのものであって、正史*1から逸れている部分が多くあります。例えば曹操が大敗したとして有名な、赤壁の戦いの詳細のほぼ全ては創作によるものであり、さらに言えば蜀の天才的軍師、諸葛亮孔明のキャラクターも、小説で創作されたものでしかないのです。
この漫画においては、歴史的に悪役とされている曹操を主人公とし、正史、三国志演義のどちらにもとらわれることなく、新たな三国志を作り上げた点で異端であると思われます。
吉川英治陳舜臣宮城谷昌光(未完結)、横山光輝等々と有名な三国志の本はたくさんあり、これ以上新しい物など出来るはずもない、と思われていました。そこに、この鬼神の如き迫力の画風、水墨画のような陰影ある・直勁な筆、緻密な台詞構成を持つこの作品が生み出され、そして、新たな色で描きあげられた、色気がある(?)三国志の人物達との、新たな出会いがあったのでした。


様々な筆で、文字で、生きている曹操が、劉備が、孫権が居る。
歴史は一つではなく、これが事実だなどと言えるものがあまりにも少ないことは明らかです。我々の知る歴史は誰かの主観にすぎず、そこに客観的真実を求めるのは無理な話。事実は確かにあるのですが。つまり「正しい歴史」なんてどこにもない、だからこそ色んな描き方があり、色んな捉え方がある、それでいいのだと思うのです。諸葛亮孔明がポン引きだったとしても、孫権が虎に乗っていようともw
これほど胸が高鳴る漫画は久しぶりでした。
この漫画を読むことが出来る時代に生まれて本当に良かった、そんな風に思える漫画に出会えたこの喜びは、まさに文学的体験に他ならないと思います。いつか子供が出来たときに、「漫画ばっかり読んで」なんて言わない親になろうと思いましたww

まだ読んでいない、漫画などで三国志を読めるか!などと思っているひねくれ者達のために、この漫画の第一巻の最初の文章を載せて、閉めたいと思いますw 読みたくなること間違いなし!



 これはおよそ2000年前のこと。
 名にしおう「三国志」の巨大な物語である。
 

 ここには無類の人間群像が存在する。
 しかし
 悪党と言われてきたものは、本当に悪党なのだろうか。
 善玉と言われてきたものは、本当に善玉なのだろうか。
 歴史は善と悪だけでわりきれるものではない。


 2000年近くもの間、何十億という人々から常に悪態をつかれ、
 その悪名がアジアを越えて世界にも鳴り渡ったが、
 どんな誹謗中傷にも負けなかった男

 
 曹操孟徳である。


 正史「三国志」の著者・陳寿曹操を「破格の人」と呼んでいる。
 つまり
 尋常の物差しでは計れない英雄だと言っているのである。

*1:『正史 三国志』は『魏書』『蜀書』『呉書』の3つに分かれて記述されていて、各国の歴史が独立して書かれている。その3つにおいても互いに矛盾があり、どれが史実かという判断はほぼ不可能。